雨宮護 横張真
都市住宅学 Vol. 2003(2003) No. 43
Urban housing sciences 本文PDF: https://www.jstage.jst.go.jp/article/uhs1993/2003/43/2003_18/_pdf
研究の背景
近年,住環境における防犯性を高めることが都市計画上解決すべき重要な課題として認識されている(都市住宅学会,1998;鈴木,2002).1960年代から70年代を中心に建設された我が国のニュータウンでは,近年の犯罪情勢の悪化等を背景に,当時の計画によって配置された公園・縁道の有する空間的な特徴が防犯上の問題を孕むと問題視されるようになった.住環境にける防犯性の問題は,実際の犯罪発生問題と,犯罪発生への住民の不安感に分けられ,後者は世論調査によって問題の大きさの増加傾向が指摘されている.犯罪不安には犯罪への適切な自衛策を促すといった利点がある一方で,居住者のストレスや行動制限につながるといった不利点もある.この犯罪不安をコントロールするためには,現状の犯罪不安の程度や発生の構造を明らかにすることが重要である.
研究の目的
ニュータウンにおける公園・縁道における住民の犯罪不安の実態を明らかにすることを目的とした.具体的な方法としては,千葉県つくば市の3つの事例地区において,世帯を無作為抽出し,アンケート調査によって公園・縁道における罪種ごとの犯罪不安の発生状況を明らかにし,次に犯罪不安の発生構造を,個人属性と公園・縁道の特徴の2点から明らかにした.最後に今後の対策のあり方を展望した.
結論
本研究では,これまで蓄積が不足していた,公園・縁道における犯罪不安発生の実態を明らかにした.結果は以下の4点にまとめられる.
① 犯罪不安の大きさは,罪種によって異なっており,とりわけ「子供への声掛け」と「女性への性的犯罪」に対する不安が大きかった.
② 犯罪不安の発生には,個人属性が関与していた.関与の度合いは罪種によって異なる.
③ 犯罪不安発生場所の特徴では,公園・縁道ともに「監視性の欠如」に関する指摘が多かったが,全般的に指摘は概念間でばらついており,犯罪不安は単一の概念では説明しきれないことが考えられた.
④ 一般的な防犯対策については,「街灯を増やす」,「樹木を剪定して見通しを良くする」ことが住民によって支持されていた.
犯罪不安発生が,個人属性に依存していたことは,防犯を意図した計画・設計・維持管理の指針を考えるにあたり,すべての個人をひと括りに扱うことはできないことを示唆している.地域住民の属性を把握し,どのような主体のどのような罪種に対する犯罪不安を軽減するのかを明確にした上での対策が望まれる.
犯罪不安場所の特徴に対する指摘のばらつきは,犯罪不安が複数の概念によって構成されていることを示唆している.対策のあり方をめぐっては,街灯を整備しさえすれば良い,樹木を剪定しさえすれば良いといった一面的な対策ではなく,利用者を増やす,住民の領域意識を向上させるといった手法を組み合わせた,多面的な対策へ展開する必要があると考えられる.
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